強み
中野は、あまり絵を動かせない。うごくメモ帳に動かない紙芝居を量産している。
オリジナルTシャツブランドの中で結構な知名度がある吉田ナゴヤ堂。
「私は佐藤ではありません」とかの文字Tシャツで有名なのだが、そこの吉田ナゴヤさんと中野は友達で、デザインフェスタなど一緒に行ったりする。
そのナゴヤさんがこんなことを言っている。
「俺は、絵がぜんぜん描けないと言う、誰よりも確実な強みがある」
ぜんぜん描けないから、俺は文字Tシャツから作風がブレないのだ、と彼は力強く言う。
うっかりそこそこ描けるせいで、変に絵の描かれたデザインTシャツに手を出してつぶれていった文字Tシャツのブランドもいくつも見てきたのだろう。冗談めかした口調で言っているが、そんな現場で戦っている男の凄味を感じる言葉だ。
中野は動画が描けないことに関しては、そこまで強みにできるほどのものではない。時間をかければ不自然ながらも動いてるように見せる程度はできる。でも、ナゴヤさんの言葉は肝に銘じておきたいもんだ。
全くできないことは強みにもなる。